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日本セールスレップ事務局次長
鈴木和正

セールスレップは、社会から認知され人々からリスペクトされる存在にならなければならない

 かつて大手電子部品メーカーで米国現地法人の責任者を務め、そこで本場アメリカのセールスレップの存在を知った鈴木和正さん。 定年退職後、第二の人生を模索しているとき、セールスレップ協同組合が設立されたことがきっかけとなって、彼は日本におけるセールスレップの可能性を追求しはじめた。(編集部)

◆ステータスの高いアメリカのセールスレップ

 大学卒業後、大手部品メーカーに入社した鈴木さんは、電子部品部門の営業・企画に携わり、1986年、ニューヨークへの転勤を命じられる。43歳のときのことだ。 当時、同社のアメリカでの大きな拠点はシカゴ、ニューヨーク、デトロイト、ロサンゼルス(サンノゼ)にあり、その下に支店が各々3〜4か所設けられていた。

 その後、現地法人の上級副社長としてシカゴに赴任した鈴木さんは、事実上の責任者として16のセールスオフィス、約100人のアメリカ人セールスマンを統括することになる。 

 100人のセールスマンがいるとはいえ、そのほとんどが大都市に駐在しており、日本と異なり広大な国士をもつアメリカでは、とてもそれだけの人数で全土をカバーすることはできない。 そこで鈴木さんは、本場のセールスレップの姿を目の当たりにする。

 それは、各人がそれぞれテリトリーをもち、その中でメーカーと顧客との橋渡しの役割を果たす独立自営のプロフェッショナルだった。 赴任前からセールスレップという仕事があることは知っていたが、自身が契約を結んだり、 その活用方法を考えたりすることは、もちろんはじめてだ。 「勉強しながら覚えていったような状態でしたが、結局、50人近くのセールスレップと契約を結んで、ようやく北米全体をカバーできました」と鈴木さんはいう(以下、発言は同氏)。

  「アメリカのセールスレップには、年収2000万〜3000万円の人がざらにいるんです。ベンツなどの高級車を駆って、自分のテリトリーを1週間ほどかけて回るというスタイルです。  
 彼らは非常にステータスが高く、ヒューレットパッカードやIBMといった一流企業からの評判もよく、個人としてもリスペクトされています。それは、高い能力、経験、実績を兼ね備えた営業のプロだからです。ですから、現地採用のセールスマンたちは『自分もいずれはセールスレップになりたい』と口々にいっていましたね」

 アメリカにおけるセールスレップは、いわば地元の名士であると同時に、若いセールスマンたちが憧れ、目標とするような存在なのだ。 「日本のセールスレップ会社には、レップを人材派遣的なものととらえているところが少なくありませんが、その方向性は違っていると思います。本来セールスレップというものは、単なる営業代行要員ではなく、どんな業態にも対応でき、どこに出しても恥ずかしくない優秀な人材であるべきだからです」

◆定年と同時に大学入学

 2003年3月、60歳を迎えて40年近く勤務した会社を定年退職した鈴木さんは、子会社などへの就職話をすべて断わり、なんと、自宅近くにある獨協大学の経済学部に入学する。 
 社会人入試が一般的になってきたとはいえ、孫ほども年の離れた若い学生たちと机を並べて、再び大学で学ぼうという意欲をもつ人はそうはいない。 
 大学で取り組んだのは「米国型・日本型セールスレップの研究」。その論文は、最優秀賞を獲得したそうだ。もっとも、現地法人で5億ドルの年商を上げ、国内・海外を問わず百戦 錬磨のビジネス経験をもつ鈴木さんであれば、それも当然のこと。
 彼が目標としていた「人生二毛作」は、順調にすべり出したのだ。 
 
 そんな第二の学生生活を送っていた時期に、セールスレップ協同組合が発足する。周囲の若い学生たちは大学に通うかたわら、アルバイトにも精を出している。
 組合が発足したことを知った鈴木さんは「ならば自分も」と、早速セールスレップ協同組合に加入してセールスレップ会社「マイレップ」を立ち上げ、"学生起業"するのである。

  「最初に取り扱った商材は、群馬県にある老舗メーカーがつくっている乾麺のうどんでした」 電子機器部品を扱っていた鈴木さんが、初めてセールスレップとして取り組んだ商材がうどんというのはいかにもレップらしい話だが、鈴木さん自ら、セールスレップは「どんな業態にも対応できる」ことを実証しようとしたと見ることもできるだろう。

◆新規開店のチャンスをモノにする

 その乾麺メーカーは、中元・歳暮の贈答用としてこれまで大手百貨店に納入しており、最盛期は百貨店1社で20億円もの売上を計上していたが、企業の虚礼廃止や経費節減の影響で、それが4分の1から5分の1に減ってしまっていた。 
 群馬・栃木にまたがる両毛線沿線は麺街道といわれるほど麺類の消費量が多いため地元ではそこそこ売れるとはいうものの、首都圏での外商売上の多くを失ってしまった。新たな販路を開拓しなければ、会社そのものが危機にさらされる状況だったのだ。 

 そこで鈴木さんは、月々の活動費(固定費)、交通費、成功報酬(売上比例)の支払いを条件にレップ契約を締結し、百貨店や大手・中堅のスーパー本部を中心に営業活動を開始する。 
 しかし、いくら経験豊かな鈴木さんでも、簡単には小売大手の壁を打ち破ることはできなかった。 「半年ほどはまったくうまくいきませんでした。あるとき、近くにある大手スーパーの店長に相談してみると、やはり取扱商品の選択の権限は本部にしかないといいます。

 しかし、一つだけ例外があるというのです」 それは、新店を出す際、その店の店長が取り扱いたい商品を本部に上申できるという制度だった。 おりしもそのスーパーが地域的にも近い埼玉県三郷市に出店するという時期で、鈴木さんはその三郷店に交渉し、首尾よく中元ギフト商品として乾麺の詰め合わせを取り扱ってもらったのだ。 
 「結果は、お中元の期間だけで70万円の売上でした。正直なところ、かつて日常的に何千万、何倍の取引をしていた私にとって、70万円といわれてもピンときません。ところが、1店舗で2か月足らずの問に単品売上70万円というのは非常に優秀な成績なのだというのです」 そこで、近隣の店舗にそれをアピールすると、その乾麺を取り扱いたいという店が24店舗に増え、ここでもよい実績を残すことができた。

  売れる商品であることがわかれば、帳合(問屋)や本部のバイヤーも積極的になる。 バイヤーからは各店舗にその商品を推奨するFAXが流され、取扱店舗数は60店舗に増加した。ようやく、本部のお墨付きを得たのである。

◆全国展開の提案を断る

 そして現在、関東地方にある118店舗のうち100店舗でその乾麺が取り扱われるようになり大成功を収めたのだが、意外なことに鈴木さんは、首都圏だけでなく全国展開しようというバイヤーの提案を断っている。それはなぜか。 
 「いくら相手が日本有数のスーパーであっても、任せっぱなしというわけにはいきません。 やはり、メーカーがHの届く範囲でケアしないと、売れなくなってしまう恐れがあるからです。 もし"この商品は売れない"という評判が立ってしまったら、いままでとは反対に取扱店舗が激減してしまうかもしれません。そういう事態だけは避けたかったのです」 自分の取り扱う商品の全国展開を提案されたら、たいていの人は売上が何倍にもなる魅力に抗うことができず、二つ返事で了解してしまうことだろう。 
 しかし、鈴木さんにはセールスレップとしての冷静な視点があった。つまり、地場の中小メーカーが、身の丈を顧みずに大きなリスクをとることのないよう自制したのである。 そういった着実な活動が実を結び、現在では1回の中元・歳暮シーズンで約2000万円を売り上げており、メーカーからはレップの什事のみならず、事業承継の相談などコンサルタント的な仕事も依頼されるようになった。 長年のビジネスの経験やセールスレップとしての仕事の実績が、メーカーからの大きな信頼につながったのである。

◆市場の視点に立ったものづくりを

 「地場の中小メーカーがいちばん困っていることは販路開拓です。マーケットの8割は上位2割の企業によって占められるという、8:2の法則がありますが、残り8割の企業は商社も相手にしてくれないというか、依頼できたとしても細かなケアはあまり期待できません。そんなメーカーにこそ、販売のプロであるセールスレップが活躍する余地があるわけです」と、鈴木さんは語る。 事実、先の乾麺メーカーは、当初、商社に販路開拓を依頼しようとしたものの、規模が小さく手間がかかるため断られたという。中小メーカーにとって販売だけを請け負ってくれる存在は意外と少ないのである。 
 
 そして鈴木さんは、地場メーカー自身の問題も指摘する。 「私はセールスレップ協同組合の理事として、全国各地に足を運んで商材の審査をしていますが、実際に売れそうだと思える商材はI%あるかないか。甘めに見ても20%です。 それはその商材にブラッシュアップを加えて、ようやくその数字に達するということで、一定のレベルまで磨いていかないと、レップとのマッチングもできません」 地場のメーカーは首都圏や大都市圏に販路を広げたいと思ってはいるものの、鈴木さんの 日から見て中央ではほとんどが通用しないレベルであるため、セールスレップ契約を結ぶことも困難だというのだ。 

 「人材不足ということもありますが、地方の中小メーカーはもっと市場の視点に立ったものづくりをするべきだと思います。
 
 大企業は社内で商材をブラッシュアップする力をもっていますが、中小企業にはその部分が欠けています。 

 それとともに、セールスレップのレベルについても一層の向上を回らなければならないと思います」 乾麺メーカーのほかにも、衣類、環境製品、IT関連など、さまざまな商材のセールスレッ プを務めるかたわら、協会運営やレップの教育・育成にも力を注ぐ鈴木さん。日本のセー ルスレップが高い社会的地位を獲得する日まで、その活動は続けられることだろう。


日本実業出版社発行雑誌記事より引用

- 地方に埋もれているすぐれた商材を発掘するプロ -
 
大企業がセールスレップの形態に着目し、その運営に乗り出したということは、レップの将来性が認められて1つの大きな流れができつつあると見ることもできる。 このような動きによって「今、セールスレップは地方に埋もれているすぐれた商材を発掘するプロ」と見られるようになっている。