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日本セールスレップ協会専務理事
 本松仁氏

工業系セールスレップの場合、メーカーの技術や能力を把握し、 市場のニーズと技術の組み合わせを考えることが大事

 サラリーマン時代に手がけたソリューションビジネスが、セールスレップへの原点だったと語る日本セールスレップ協会の本松仁氏。工業系商材のセールスレップ、そして日本セールスレップ協会専務理事として、協会の草創期からその実践・普及にあたる本松専務理事に、過去のキャリアから今後の方向性までを聞いた。(編集部)

◆事務機器メーカーでの経験を活かす

 1978年、大学を卒業した本松氏は、大手事務機器メーカーに入社。ここで5年間ほど、主に複写機の営業・販促に携わった後、彼は別のメーカーに転職する。 転職先のメーカーの主力製品も複写機。営業、マーケテイング、新規事業、経営企画などの仕事を経験し、この会社には8年ほど在籍したという。 
 「私は同じ会社にあまり長くいないタイプ」と本松氏はいうが、この2番目のメーカーでの経験が、自分にとってのセールスレップの原点だったという。 時代が昭和から平成に移ろうかという時期、ほとんどの複写機はアナログ方式であり、単なるプリンタの役割を果たすにとどまっていたが、本松氏の在籍していたメーカーは、比較的早くデジタルコピー機を開発していた。

 そこで本松氏が手がけた新規事業は、このデジタルコピー機とパソコンをつなげるという商品企画だった。 現在では、オフィスにあるデジタル複合機やネットワークシステムは一般的なものとなったが、当時は、ほとんどのOA機器はスタンドアローンで利用するのが当たり前。そんな時代に打ち出したこの商品企画は、業界でも語り継がれるほどの大ヒットとなったのである。
  「複写機とパソコンをつなげるためには、ドライバやアプリケーションソフトを開発しなければなりません。その開発をベンチャー企業にやってもらったのです。現在なら低コストで実現できますが、当時はいまほど一般的なものではなかったため、相当な金額の投資が必要でした」と本松氏は回想する(以下、発言は同氏)。

 「この新規事業が成功してよかったということもありますが、自分にとって、ベンチャー企業とはじめて付き合った経験は非常に役立ちました」営業から社会人生活をスタートさせた本松氏だが、もともとは理科系の出身。 工業系商材のセールスレップやマッチングを行なうにあたっては、技術に対する"目利き"が重要だ。 自社のもつ技術と協力してもらうベンチャー企業の強みの両方を見きわめることができたからこそ、その新規事業は成功したのだろう。

◆商材提供側からレップ育成の立場に

 このメーカー在職中に、経営企画の仕事に携わったり、経営コンサルタント養成講座を受講するなど、経営全般についての知識を深めた本松氏は、あるベンチャー企業に役員として迎え入れられる。担当はIPO(新規株式公開)である。

 バブル崩壊直後ということもあり、残念ながら、この会社が株式公開にこぎつけることはできなかったが、本松氏はここで、そのノウハウを十分に蓄積することができた。
 そして、95年に独立し、コンサルティング会社「ビジネスプランナーズ・ジャパン」を設立するのである。 「メーカー時代の商品企画の経験や経営の勉強、そしてその後のIPOの知識などが、独立にあたって大きな力になりました」 2003年に経済産業省はセールスレップ普及検討委員会を設立し、そこでセールスレップの扱う商材の検討が行なわれていた。まだ、セールスレップ協同組合や日本セールスレップ協会が設立される前の話である。 

 実は、この委員会の場で本松氏は、ビジネスプランナーズ・ジャパンのクライアントであるメーカーの代理として、商材についてのプレゼンテーションを行なったのだ。つまり最初は、販路開拓を依頼する立場でセールスレップに関わったのである。
  「ベンチャー企業のコンサルティングの中で必ずぶつかる壁は、販路がない・資金がない・人材がいないということです。たとえIPOに成功して資金導入できたとしても、それで販路が拓けるわけではありません。それがコンサルティングをしていくうえでの大きな悩みだったのですが、ここではじめてセールスレップという仕組みを知り、興味を持ったわけです」 そして、翌04年9月に設立されたセールスレップ協同組合に加入し、そのキャリアと実力を見込んだ組合側からセールスレップを育成する立場になるよう要請される。
 このため本松氏は、セールスレップ協会の設立にあたり研修プログラムや試験内容などの仕組みづくりを担い、研修講師としても多忙な時を過ごすことになったのだ。

◆市場のニーズを捉え、 可能な技術を糾み合わせること

 もちろん本松氏は、コンサルタントや研修講師のかたわら、工業系商材を取り扱うセールスレップとしての仕事も行なっている。 その一例が「ETCゲートの電界強度を測定する機器の開発と量産」である。 高速道路のETCゲートは定期的に電界強度を計測しなければならないのだが、以前は測定作業の間はゲートを閉鎖していたため、それによる渋滞が起こってドライバーからクレームが相次いでいたというのである。

 「なぜ、ETCで渋滞になるんだ」と。 そこで技術的な検討を行ない、販路開拓を依頼してきたベンチャーの技術力を見きわめたうえで、本松氏は「車載型の計測機器」を提案した。つまり、これまでゲートを閉鎖して作業をしていたものを、クルマに載せてゲートを通過するだけで電界強度が測定できる機器を開発したのである。たとえ、時速100キロで通過したとしても計測可能だという。「離れ業といえるような技術でした」と本松氏はいうが、それが可能であると見抜いた点は工業系レップの面目躍如といったところだ。
  「このケースでは、セールスレップは開発段階と量産段階の2段階で関わることができますから、フルコミッションでも十分ペイする仕事でした。現在追加のオーダーも来ていますので、最終的には7〜8年で20億円程度の売上が見込めると思います」セールスレップ個人が扱うものとしては、か なり大きな案件といえるだろう。 

 「もちろん、技術的な問題はメーカーのエンジニアの手を借りないと説明しきれない高度な部分がありますから、私はプレゼンテーションに徹しました。要は、その装置の特性を伝え、差別化ポイントを明確に打ち出したということです。先方のニーズはわかっているわけです から、それにマッチしたプレゼンができれば競合に勝てます。工業系の場合は、そのメーカーの技術や能力を把握し、ニーズと技術の組み合わせを考えることが大事ですね」

◆まずは市場を知ることが不可欠

 このように工業系レップの場合、技術知識に強く、メーカーの特性や長所を把握しておくことが求められるが、いくら先鋭的な技術を組み合わせたものをつくったとしても、ニーズがなければその製品は無用の長物ということになる。 

 やはり、マーケットのニーズを探ることが優先されるのだ。 そのニーズを探るためにはどうするか。すると「人に会って話を聞くことに尽きる」という答えが返ってきた。 つまり、当たり前のことかもしれないが、工業系であっても商業系であってもメーカーと販売先を結びつけるというセールスレップの本質は変わらず、情報収集の方法にしても基本的な部分は共通しているのだ。 最後に、将来の「夢」を聞いてみた。 「やはりオリジナル製品をもってみたいですね。」
 セールスレップの数も増えて、売る人はたくさんいるのですし、市場のニーズを満たすものができればと思うのですが、よほど運に恵まれないと実現できるものではありません。まさに"ドリーム"の話ですね(笑)」 

 けれども、(※)工業系のセールスレップは、その「夢」を実現しやすい位置にいると見ることもできるだろう。地道な努力や知識・経験が求められることはいうまでもないが、地方の無名ベンチャーとのコラボレーションによって「大化け」する可能性を常に秘めているのだ。


日本実業出版社発行雑誌記事より引用

※工業系のセールスレップ資格認定登録者
日本セールスレップ協会は、商業系、工業系、環境系、IT系、サービス系の各ジャンルでのセールスレップを育成している。