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日本実業出版社「ザッツ販売」2006年9月20日掲載記事

(株)日本総合研究所 研究事業本部主任研究員 芦田 弘氏
1955年生まれ。慶應義塾大学工学部管理工学科卒、現在(株)日本総合研究所研究事業本部主任研究員を務める。共著書に「セールスレッブの仕組み」「ニュービジネス・システムと情報技術」などがある。

 私は経営コンサルタントとして、販売力の強化や販売革新というものをテーマの1つにしています。現在活用されている販売手法以外に新しい方法論がないかと、いつも関心をもって探していたんです。
 そんなとき、あるアパレル企業の社長さんから、アメリカではセールスレップというものがあり、当たり前の販売システムなんだという話を聞かされたんですね。10年ほど前のことです。そこで、日本にそのまま導入できるかどうかは別として、ちょっと調べてみようと思ったのがきっかけです。
 当時、ほとんどセールスレップについて書かれた文献はなかったのですが、マーケティング学者の江尻弘先生の著作の中で紹介されているのを見て、江尻先生を交えた勉強会をはじめ、共著で『セールスレップの仕組み』(中央経済社)を出しました。


2007年問題などで、徐々に注目
 2003年に経済産業省が、「日本型セールスレップ・システムの普及及び実践」を提唱して以来、セールスレップに対する知名度は上がってきました。
 経産省の旗振りの狙いは、中小のものづくり企業の振興、つまり、技術はあるが販売のしくみが確立していなかったり、自前で販売要員を抱える余裕のない、優秀な小規模メーカーの販売支援にセールスレップを活用しようということです。
 そして、同年に日本セールスレップ協会、2005年にセールスレップ協同組合が設立され、ここ数年で制度活用のための体制づくりが進んだといえるでしょう。だいぶ、社会的に認知されてきたというところですね。
―ところで、セールスレップの基本的な考え方とはどうなんですか。
 セールスレップとは、セールス・レプリゼンタテイブ(Sales Representative)の略で、メーカーなどに代わって、その商品販売を代行する販売員のことです。代理店や問屋と違うのは、在庫をもたず、回収業務もなく、仲介・斡旋機能に特化した個人事業主であることです。
 セールスレップの特徴をまとめると、
・売り手と買い手を仲介すること
・仲介手数料をもらうこと
・商品在庫をもたないこと
・テリトリー制であること(地域密着)
・複数の売り手の商品を扱うこと
などが挙げられます。


アメリカとの違いはステータス!
 日米の国情の違いが大きく影響していると考えられます。
 1つは国上の広さの違いです。アメリカは広大な国土をもつにもかかわらず、日本のような卸売流通網が必ずしも行き渡っているわけではありません。そうすると、大都市ではメーカー直販でやっていけますが、遠隔地の中小都市での販売をもくろむ場合には、その土地に根を下ろしているセールスレップに販売を委託する必要がでてきます。
 つまり、支店や販売所を設けて自社の販売員を配置するよりも、そこに住んでいるセールスレップに頼んだほうが、はるかにコストがかからないという背景があるわけです。
 もう1つは推測ですが、セールスに対する社会的評価の差が、セールスレップ普及の差につながっているのではないかということです。日本で販売というと、多くの新入社員はやりたがりません。「きつい」というイメージが先行し、必ずしも高いステータスが与えられていないという現実がある。これに対してアメリカでは、セールスパーソンは尊敬の対象であり、彼ら自身も仕事に自信やプライドをもっています。つまり、ステータスをもった職種と位置づけられているわけですね。
 そうなるためには、もちろん奥付けが必要です。セールスのノウハウを身につけ、人間的な魅力を備え、そして人脈をもっていることが求められるわけですが、そういう裏付けがあり、実績もあげて、なおかつ収入も高いということが大きいのだと思います。

 たしかに、条件的にはアメリカとは正反対ですね。けれども、いま注目されているということには、それなりの理由があるのです。
 まず、セールスレップとして働く人の側から見ると、働き方の多様化ということがあげられます。子育てをしながら働きたいという女性にとって、時間の拘束がなく、在宅勤務も可能というメリットのあるセールスレップは魅力的です。実際、生保レディなどの販売経験をもつ女性が、出産・子育てを機にセールスレップに転身したという例は少なくないようです。
 さらに、団塊世代の大量退職が間近となり、2007年問題として取り沙汰されていますが、その受け皿としても有効です。豊富な販売経験のある定年退職者はまだまだ労働意欲がありますし、セールスレップはその経験を活かすのにふさわしい仕事だからです。というのは、本来、セールスレップは単なる売り込みのためのマンパワーではなく、それなりの人物が目利きをして、メーカーと販売先を結びつけることが求められるものだからです。
 次に、企業側から見ると、どの企業も、いまやコストセーブ、アウトソーシングという視点をもっています。しかし、既存の販売網と自前の販売パーソンを数多く抱えている大企業が、その代替策としてセールスレップを使うというのは、抵抗感が強い。つまり、既存の販売システムや労務管理面における問題が生じます。
 むしろ経産省の提言のように、優秀な技術をもっているものの販売力がない中小メーカーが、新商品を開発したり新規事業に乗り出そうとする場合に、新しいチャネルを開発するためセールスレップを活用するというのが、1つのモデルケースになると思われます。
 つまり、質の高い製品はできたが、なかなか売り先が見つからない。そこで、豊富な販売知識や人脈をもったセールスレップに依頼して企業に売り込んでもらい、売上に応じて販売手数料として支払う。固定費がかからず、プロに販売を委託できるというのは、中小にとって大きなメリットだと思います。


「三方が得する」が基本
 まず活用する企業側の心構えとしてもっておきたいのは、「販売の丸投げ」ではないということです。アメリカでは企業側が膨大なマニュアルを用意し、そのマニュアル通りに販促活動をしてもらう形をとっています。日本の販売は総じてアバウトなところがありますが、アメリカではかなり細かいですね。
 さらに企業が単に「この商材を売ってきてくれ」と頼むのではなく、マーケティング戦略や販売戦略を示したうえでセールスレップを活用しないとうまくいかないでしょう。
 そして、取扱商品は、高単価でフェイス・トゥ・フェイスの説明が必要なものであることがベスト。低単価で大量販売される商品は、流通網を備えた問屋や代理店に分かあります。また、労働の対価として見合いません。そこで、顧客と直接対面できて、きめ細かい提案説明や実演ができるというセールスレップの特性を活かせる高単価商品のセールスがとくに有効だと思います。
 いずれにせよ、セールスレップによる販売システムを成功させるためには、売り手(メーカー)、買い手(顧客)、仲介者(セールスレップ)の三者が得をできるという考え方に立たなければなりません。それなしに長期的な成功を望むのは難しいということを覚えておいていただきたいですね。