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輸入食品=オルゾ販売・原敦子さんの例

商品の売り込みと同時にセールスレップの説明もしています!

 新しい販売スタイルとして注目を浴びつつあるセールスレップ。セールスレップとは、商品在庫を持たず、売り手と買い手を仲介することによってコミッションを得る販売者のことで、まさに「販売のプロ」。しかし、日本ではまだまだ普及しているとはいいがたい(秋季号P128インタビュー「セールスレップは日本で根付きますか」)。
 そんななか現役のセールスレップとして活躍する女性に、その活動ぶりを聞いた(編集部)。

 原さんは、日本セールスレップ協会の認定する「セールスレップ資格」をもつ。現在、資格保侍者は300名余りで、うち女性は原さんを含めて20人だけという。いわば、日本における女性セールスレップの草分け的な存在といえる。

時間拘束の少ない働き方

 原さんは、比較的早いうちに結婚して出産したため、20代には正規の就業経験がなかったという。そして、お子さんが中学生になった30代の半ばで、はじめて「就職」することになる。
 「そろそろ仕事をしなければと思い、生命保険会社のセールスレディとして働くようになるのですが、実は仕事の内容はなんでもよかったんです(笑)。好きで生保に行ったわけではなく、時間のやりくりをつけやすい仕事として生保を選んだわけですね。勤務していたのは家の近所の支部で、10分ほどで通える場所です。夫と子どもを送り出してからでも十分間に合います」
 という原さんだが、その生保会社で6年半ほど働いた後、自分のやりたい仕事を模索しつつ、約1年間の充電生活を送る。そこに舞い込んできたのが、損保系生保の代理店の仕事。生保の販売経験があり、退職して間もない彼女に白羽の矢が立ったのだ。
 「この仕事は、生保レディより時間をさらに自由に使えました。自分でアポを取って販売に行き、普段は自宅で仕事ができます。会社に顔を出すのは1週間に1回程度で、それも義務ではありません。この自由な時間ができたおかげで、いろいろ見聞を広めることができました」

セールスレップとの出会い

 転機は4年ほど前のことだった。
 当時、埼玉県を中心に活動していたセールスレップ協同組合の主催するSOHO交流会に出た原さんは、協同組合の理事など、セールスレップを推進しようとする人々と交流をもつようになる。
 そこで、原さんのキャリアを見込んだ副理事長の柴田郁夫氏(青森大学経営学部教授)から、ある輸入食品の販売代行を依頼されたのだ。それは、イタリアのオルゾという大麦を原料としたノンカフェイン飲料(代用コーヒー)だった。
 柴田氏は情報産業論やインキュベーション論などの研究者だが、NPO法人東上まちづくりフォーラムの代表理事を務めるなど、まちづくりやSOHO支援の活動にも携わっている。それらの活動の一環、そしてセールスレップ研究の実例として、食材を売るというビジネスを実現しようとしていた。
 ただし、彼にはいわゆるビジネス現場での販売経験はない。そこで、柴田氏の設立した会社(日本での販売総代理店=国産品であれば、その位置づけはメーカーとなる)の販売活動を引き受けるような形で、原さんが奔走することになったのだ。
 販路の開拓やイベントの実施はもちろんのことだが、当初、大袋に入った粉末状の商品だったものをティーバッグ状にして使い勝手をよくしたり、パンに練り込むことを提案するなど、原さんは商品開発の面でも女性ならではの視点で改良を重ねていく。
 「私はもともと、商品企画やプロデュースに興味がありました。女性は、自分が買う立場になって『こういうものだったら買うよね』と考えるものですし」と原さんは語る。
 セールスレップには販促活動のほかに、メーカーヘの情報のフィードバックという役割がある。バイヤーやユーザーの意見や要望を汲み取り、それを新商品の開発や改良、商品ラインナップの強化に役立てるということだ。それは、セールスレップ自身が売りやすいようにすることともいえよう。彼女は、まさにその部分を実践したのである。

いよい収穫の時期に

 オルゾを扱って1年半。さまざまな販売活動を積み重ねてきた原さんだが、ようやく世間に商品が認知されてきたと考えている。
 大手百貨店の伊勢丹に口座を開くことができ、また、オルゾ入りの食パンは、高級品の通販であるJALの「グルメファーストクラス」で紹介された。ことに伊勢丹との取引ができるということは、大きな信頼感とステータスをもたらすという。「よく伊勢丹に食い込めたね」と周囲の人に言われて、彼女はかえって驚いたそうだ。
 もちろん、そこに至るまでには、彼女自身の努力によるところが大きいといえるだろう。日本セールスレップ協会有限責任事業組合常務理事の北賢治氏はこう語る。
 「彼女が単なる商材の飛び込みセールスにすぎなければ、成功したかどうかはわかりません。生保などで培った豊かな販売経験があり、そのうえで商材に惚れて売り込んでいるということが先方のバイヤーに伝わったからこそ、うまくいったのでしょう」
 店頭での商品の本格的な展開は来年から。このため、売上に応じてメーカーから手数料を得るセールスレップとして、まとまった報酬を手にできるのはそれ以降ということになる。メーカーの力量や商材によってそれぞれ状況は異なるだろうが、原さんのケースでは販路開拓や商品の認知度向上といった、いわば「種まき」にそれだけの期間がかかったということなのだ。

「セールスレップ」そのものの認知度は…

 現在、原さんの名刺には「セールスレップ」という肩書とともに、オルゾの販売総代理店の社名も刷り込まれている。これは本来の形ではないのだが、便宜上このようなスタイルをとっているという。
 「セールスレップの原です」と言っても、「どちらのセールスレップさんですか?」と返されてしまうのが現実なのだそうだ。つまり販売の世界にいる人であっても、ほとんどの人が、セールスレップという職業を認知していないのだ。
 「いまはオルゾだけを取り扱っているからいいのですが、たとえば将来、別のメーカーの別の商材を同じ伊勢丹さんに持っていった場合、混乱を招くのは目に見えています。『あんた、どこの人なんだ』と。だから、販売促進をしながらセールスレップの説明もして歩いているんです」と原さんは笑いながら話した。
 実際のところ、「種まき」からはじめるスタイルでフルコミッションが前提となると、当面の間はセールスレップ専業では生活していけないという問題が残る。
 メーカーとの契約形態や売上管理体制の整備を含め、セールスレップが職業として広く認知され確立するまでには、もうしばらく時間がかかるかもしれない。しかしセールスレップには、新しい販売スタイル、新しい働き方としての可能性が秘められていることは間違いないだろう。

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